いつくしい朝へ

2月31日

小学校から付き合いのある友達に誘われて朝日をみた。北海道の真冬であるというのに、雪も風もなく、ありえないくらい空気が澄んでいた。

04:10

いつもなら眠くなってくる頃だけど、身体は完全に覚めきっていた。それもすこし、いやかなりだが緊張していた。中学卒業後も、時々集まっては遊んでいた仲なのにその時はどうしてか緊張していたのだ。

おそらく、ちょうどその時に読んでいた本のせいだ。最近、没入すると自意識が肥大していくようなどうしようもない小説を読んでいた。自己破壊系のそういうやつ。破裂しそうな精神状態を、お守りみたいな市販の鎮静薬で濁しながら、車の迎えを待った。

友達が借りてきてくれたレンタカーは、海岸沿いを、西へ西へと走っていた。音のないトンネルをいくつか抜けると、古い水族館と崖と日本海がすべてみたいな小さな街に出た。自分の住んでいる地域からこの方角へは、自力で来られる最果ての場所。

車中でどんな話をしただろう。あんまり覚えていないけど、もうすでに緊張してなかった気がする。自分のぎこちなさを笑ってくれる人たちだったのを思い出していた。いつからか自分は、自分のことを理解してくれる人じゃないとあんまり遊べなくなっている。自分のそれはコミュ障じゃなく自己中だなと思う。

展望台を登って、広がる海を見下ろした。風がなかったから、あまり水面は揺らいでおらず、ただ黒く照らされたそれはすこし怪奇的だったけど、ここまで来れたのが嬉しくて、そんなことすぐにどうでも良くなった。

日が昇るまで、席を倒して懐かしい話をずっとしていた。中学時代の先生。忘れかけてたクラスメイト。文化祭。そういう話。そんなことを話していたら、なんかこのまま日が昇らないのもそれはそれでありだなと思った。

06:19

ぼんやりと浮かぶオレンジ色の光の溜まりに、少し色の薄い光の線が平行に伸びた。

砂利 枯れ木 日本海 吸い込む息 ゆらゆらと揺れる水面 凪 岩 崖 白い息 冷たい空 廃れた鉄 グミ ホテル 毛布 ドア ガソリン 尿意 酸素 潮 水色と灰色 声 肌 指先 薄明 雪 水面に上昇する霧 酔える球面 木漏れ 反射光 張り付く雪 足先の湿り気 いつくしい朝 曙光へ 朝焼けへ

 

素直な気持ちで、だれか撃ち殺してくれと思った。この澄んだ官能のまま死んだらそれでいい気がした。これは半分ウソで半分は本当。そういう刹那的な情緒と矛盾。

忘れないようにしたい日だった。

 

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